家政婦の私が、奥様の遺言を読みます 【第12話】 やっぱりにげようとする

夕方、広い屋敷の中で台所だけあかりがついていた。

夕暮れの九十九家のシーンの漫画 台所の戸を細く開けて立つタカのシーンの漫画 戸口に向かって静かに声をかけるタカのシーンの漫画
あちこちに動く透の目元のアップのシーンの漫画 腰を浮かせ気味に帰りたそうにする透のシーンの漫画 コンロの上のやかんがしゅんしゅんと湯気を上げて鳴っているのシーンの漫画
湯のみを見てつぶやくように言う透のシーンの漫画 向かいの椅子に腰を下ろすタカのシーンの漫画 ひと呼吸おくタカのシーンの漫画
次の話へ 【第13話】 三月の十一日木曜でした そんな。母さんが、そんなことを、ぼけてたんじゃ、なかったのか。

家政婦の私が、奥様の遺言を読みます 【第12話】 やっぱりにげようとする のあらすじ

夕方、広い屋敷の中で台所だけあかりがついていた。最初に呼んだのは、透さんだった。いや、おれは、もう、すぐ帰るからさ。な、いいだろ。奥様が、亡くなる、ほんの少し前の、ことでした。

ここまでのあらすじ(第1話〜12話)

【第1話】 ここからお一人ずつお返しいたします 九十九家の座敷。財産を奪い合った一族が、顔を真っ青にして座っていた。タカさん、おはよう。今日もいい朝ね。紅茶をいれてくれる。ねえ、だからいくらなのよ。さっきから、それを聞いてるの。

【第2話】 悠介の声がまた聞こえる タカは目を閉じ、また手を動かした。聞こえないふりをするのも、家政婦の仕事だ。なぜ『ぼけていた』ことにしたいのか。タカには、まだ分からない。刻一刻と時間が過ぎ、夜になった。葬式の一日が、ゆっくり過ぎていく。

【第3話】 家族の席に座らせるわけにはいかないわ 夕方、葬式の列のそばに立っていると、里子さんが、タカをちらりとも見ずに言った。三十五年もいる。母さんのことを、いちばん知っている。翌朝。タカは、奥様の茶碗をていねいに洗っていた。

【第4話】 欠けててもこれがいいの 茶碗を洗っていた手を止めると、水がぽたりと落ちた。玄関に四人が、ずらりと一列に並んで待っていた。タカはまばたきもせず里子を見た。背すじはのびたまま。

【第5話】 この人も煙にまく気だ 玄関が、しんと静まりかえった。亡くなる三日前。奥様は、タカの名前を呼んだ。お、おれは、何も知らないから。本当に、何も知らないんだ。

【第6話】 本当によく笑う子だった 透がまた下を向いた。玄関の空気が、ふっと止まる。奥の物置。三十五年いて、残されたのはそこだった。はじめてこの家に来た日。タカは、まだ十七歳だった。

【第7話】 でも今その言葉が腑に落ちた 三十五年。長かった。でも、あっという間でもあった。タカさん。少しの間だけ、席を外していてくれるかしらね。すぐ済むから。布施タカ。五十二歳。わたしは、ただの家政婦だ。

【第8話】 歳は四十くらいだろうか その手は、一枚の紙を固くにぎっていた。失礼します。これを置かせてください。でも、本当に大事なことは、ぜんぶ、この声と、このノートに。

【第9話】 つめがてのひらに食いこむ 足が悪いのに、この階段をのぼっていたのだ。『もうろくして、正気ではなかった』と、そう言って。ずっと、ちゃんと息をしていなかった。そのことにやっと気づいた。

【第10話】 ここから先が奥様の本心だ では、読みますね。よろしいでしょうか。それと、もう一つ。奥様の言葉は、次のページに続いています。奥様の言葉を、ひとりずつ、本人の前に、返してまわります。

【第11話】 奥様からの条件ですか タカは立ち上がり、帰ろうとした。その時だった。正月に、奥様の財布から、お金を抜いた子の顔。一人目は、誰にしようか。順番を、決めなければならない。

【第12話】 やっぱりにげようとする 夕方、広い屋敷の中で台所だけあかりがついていた。最初に呼んだのは、透さんだった。いや、おれは、もう、すぐ帰るからさ。な、いいだろ。奥様が、亡くなる、ほんの少し前の、ことでした。

家政婦の私が、奥様の遺言を読みますの話一覧を見る