家政婦の私が、奥様の遺言を読みます 【第17話】 それぞれはっきりさした

亡くなる三日前。奥様が、この部屋で、最後にお茶を飲んだ日です。

布施タカが湯のみを見つめながら亡くなる三日前を語りだすのシーンの漫画 里子の眉がぴくっと動くのシーンの漫画 布施タカが順番を変えた手が覚えていると告げるのシーンの漫画
布施タカがあの日の里子の言葉を静かに突きつけるのシーンの漫画 布施タカがその横でお茶を出していたと静かに告げるのシーンの漫画 布施タカがまっすぐ里子を見るのシーンの漫画
布施タカが後始末をしているだけだと静かに告げるのシーンの漫画 布施タカがもう一つの湯のみを指さすのシーンの漫画 布施タカがお金がなくなるのがこわかったのだと静かに突くのシーンの漫画
次の話へ 【第18話】 里子は首を横にふり続けた ちがう。ちがうわよ。そんなの、ぜんぶ、ちがうから。

家政婦の私が、奥様の遺言を読みます 【第17話】 それぞれはっきりさした のあらすじ

亡くなる三日前。奥様が、この部屋で、最後にお茶を飲んだ日です。わたしはその横でお茶を出していたんです。聞いていないとお思いですか。お金がなくなるのが、あなたはずっとこわかったんでしょう。

ここまでのあらすじ(第1話〜17話)

【第1話】 ここからお一人ずつお返しいたします 九十九家の座敷。財産を奪い合った一族が、顔を真っ青にして座っていた。タカさん、おはよう。今日もいい朝ね。紅茶をいれてくれる。ねえ、だからいくらなのよ。さっきから、それを聞いてるの。

【第2話】 悠介の声がまた聞こえる タカは目を閉じ、また手を動かした。聞こえないふりをするのも、家政婦の仕事だ。なぜ『ぼけていた』ことにしたいのか。タカには、まだ分からない。刻一刻と時間が過ぎ、夜になった。葬式の一日が、ゆっくり過ぎていく。

【第3話】 家族の席に座らせるわけにはいかないわ 夕方、葬式の列のそばに立っていると、里子さんが、タカをちらりとも見ずに言った。三十五年もいる。母さんのことを、いちばん知っている。翌朝。タカは、奥様の茶碗をていねいに洗っていた。

【第4話】 欠けててもこれがいいの 茶碗を洗っていた手を止めると、水がぽたりと落ちた。玄関に四人が、ずらりと一列に並んで待っていた。タカはまばたきもせず里子を見た。背すじはのびたまま。

【第5話】 この人も煙にまく気だ 玄関が、しんと静まりかえった。亡くなる三日前。奥様は、タカの名前を呼んだ。お、おれは、何も知らないから。本当に、何も知らないんだ。

【第6話】 本当によく笑う子だった 透がまた下を向いた。玄関の空気が、ふっと止まる。奥の物置。三十五年いて、残されたのはそこだった。はじめてこの家に来た日。タカは、まだ十七歳だった。

【第7話】 でも今その言葉が腑に落ちた 三十五年。長かった。でも、あっという間でもあった。タカさん。少しの間だけ、席を外していてくれるかしらね。すぐ済むから。布施タカ。五十二歳。わたしは、ただの家政婦だ。

【第8話】 歳は四十くらいだろうか その手は、一枚の紙を固くにぎっていた。失礼します。これを置かせてください。でも、本当に大事なことは、ぜんぶ、この声と、このノートに。

【第9話】 つめがてのひらに食いこむ 足が悪いのに、この階段をのぼっていたのだ。『もうろくして、正気ではなかった』と、そう言って。ずっと、ちゃんと息をしていなかった。そのことにやっと気づいた。

【第10話】 ここから先が奥様の本心だ では、読みますね。よろしいでしょうか。それと、もう一つ。奥様の言葉は、次のページに続いています。奥様の言葉を、ひとりずつ、本人の前に、返してまわります。

【第11話】 奥様からの条件ですか タカは立ち上がり、帰ろうとした。その時だった。正月に、奥様の財布から、お金を抜いた子の顔。一人目は、誰にしようか。順番を、決めなければならない。

【第12話】 やっぱりにげようとする 夕方、広い屋敷の中で台所だけあかりがついていた。最初に呼んだのは、透さんだった。いや、おれは、もう、すぐ帰るからさ。な、いいだろ。奥様が、亡くなる、ほんの少し前の、ことでした。

【第13話】 三月の十一日木曜でした そんな。母さんが、そんなことを、ぼけてたんじゃ、なかったのか。あの日、透さんはお茶を自分で運ぼうとしましたね。……なあ、タカさん。ひとつだけ、どうしても聞きたいことがある。

【第14話】 タカさんおれやっと決めたよ なんでだよ。おれは酷い人間なんだから、ののしられたほうが楽なのに。そのうち、鼻をすすって立ち上がった。透は戸口で足を止め、ふり返らずに言った。

【第15話】 これでひとつ終わった 兄さんは、あんたが思うより、もっとひどいことをしている。朝の光が畳にまっすぐ落ちていた。だれもいない、奥様の部屋だ。奥様の声をひとつだけ、聞いてほしいんです。

【第16話】 その人は静かに言った 机の上には、小さな黒い機械が置いてあり、部屋のすみにもう一人いた。わたしね、ぜんぶ聞いていたわ。あの日の言葉も。タカは机の上に湯のみを三つならべた。

【第17話】 それぞれはっきりさした 亡くなる三日前。奥様が、この部屋で、最後にお茶を飲んだ日です。わたしはその横でお茶を出していたんです。聞いていないとお思いですか。お金がなくなるのが、あなたはずっとこわかったんでしょう。

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