資格の数だけ時給が上がる国で、シンママの私が見返した 【第13話】 テーブルに置いた明細

1年前のわたしは、ここで下を向いた。今日は、向かない。

去年の言葉を覚えているかと美咲が切り出すシーンの漫画 「1400円」「届かない高さ」の言葉を突き返すシーンの漫画 時給1450円の明細をテーブルに置き部屋が静まるシーンの漫画
「まちがいでしょ」と騒ぐ由佳に国の制度だと返すシーンの漫画 夜の仕事と決めつける由佳に会社名を示すシーンの漫画 「同じ制度があなたにも使える」と静かに告げるシーンの漫画
「役所に問い合わせて構わない」と由佳を追い詰めるシーンの漫画 誰も笑えなくなり由佳の声が小さくなるシーンの漫画 親戚が「あんたの負けじゃない、数字なんだから」と言うシーンの漫画 言いわけの声が震え由佳が明細から目をそらすシーンの漫画
次の話へ 【第14話】 数字で勝った日 「制度は、私を下に見ない。

資格の数だけ時給が上がる国で、シンママの私が見返した 【第13話】 テーブルに置いた明細 のあらすじ

1年前のわたしは、ここで下を向いた。今日は、向かない。「去年言いましたよね。時給になおせば1400円だと。届かない高さがあると」——美咲は時給の明細をテーブルにそっと置いた。「わたしの今の時給は、1450円です」。部屋がしんとする。まちがいだと騒ぎ、夜の仕事だと決めつけ、ずるいと喚く由佳。「同じ制度が、あなたにも使えますよ。今日からでも」。制度は誰にでも開いているのに。由佳の声が、初めて小さくなった。

ここまでのあらすじ(第1話〜13話)

【第1話】 正月に笑われた私 正月の親戚の集まりで、シングルマザーの橋本美咲は従姉の由佳に「子ども抱えて借金って、一生底辺だね」と嘲笑されていた。借金の額、もらえていない養育費——由佳は皆の前で容赦なく切り込み、大人たちは笑うだけで誰も止めない。娘・陽葵の親戚づきあいを守るため、美咲は下を向いて耐える。だがこの借金の半分は、そもそも美咲のものではなかった。話は1年前、金にだらしない夫・拓也との日々にさかのぼる。

【第2話】 時給が上がる法律 「離婚してください。陽葵はわたしが育てます」——夫は借金の半分と6歳の娘を残して消えた。もう男には頼らない、自分で稼いで育てると決めた美咲だが、正月の席では由佳に「高卒で資格なし、あなたにできる仕事なんてない」と夢を見るなと突き放される。悔しさに震えた3日後、パート先の店長・佳代から驚きの話を聞く。この国には、資格を1つ取るたび最低時給が150円自動で上がる法律がある——美咲の武器が、見つかった。

【第3話】 ママも今日から一年生 「資格って何から取ればいいと思いますか」——佳代の勧めは簿記だった。勉強は高校ぶり、できるだろうかと不安がる美咲に、佳代は「できるかじゃなくて、やるの。やった分は国が数えてくれる」と背中を押す。その夜、娘の陽葵を寝かせてから古い机に向かい、中古の簿記テキストを開いた。最初のページからちんぷんかんぷん。それでも由佳の笑い声を思い出すと不思議と目が冴えた。この小さな机が、いつか親戚を見返す場所になる——だが2月、一通の手紙が美咲を追い詰める。

【第4話】 給食費が払えない夜 2月、給食費が口座から引き落とせなかったという学校の手紙が届く。財布には小銭だけ、給料日はまだ先。「ひまり、わるいことしてないよね?」と不安がる6歳の娘に「大丈夫」と笑い、美咲は台所で一人泣いた。週末の法事で由佳は「電卓たたく前に財布の中身を数えたら?」と嘲笑う。プライドを飲みこんで頭を下げた美咲に、由佳が突きつけた条件は「みんなの前で、わたしは底辺ですと言え」——お金より先に心を売れという意味だった。

【第5話】 一人で抱えないで 週明け、店長の佳代に正直に事情を話すと「給料の前ばらいにしましょ」と助け船を出してくれた。「返すんじゃなくて働くの」——その優しさに頭が上がらない一方、時給1000円のままでは娘を守れないと思い知る。3月、陽葵が夜中に熱を出した。頭が真っ白になり電話をかけた相手は、同じシングルマザーのママ友・早紀。「今から行く」と駆けつけた早紀は朝まで看病を買って出る。「一人で抱えないで、私がいる」——頼らないと決めたのは男にだった。友だちは、別なんだ。

【第6話】 二人なら戦える 朝には陽葵の熱は下がった。それから美咲と早紀は、夜に一緒に勉強する仲間になる。早紀は医療事務、美咲は3か月後の簿記試験。「負けたほうがアイスな」と競争を約束し、眠い夜は子どもの寝顔を3秒見てから机に戻る。目当ては時給——上げて、子に楽をさせる。一人の夜は長いけれど、二人なら戦える。カレンダーの6月を赤ペンで囲み、迎えた試験の朝。玄関で陽葵が差し出したのは、折り紙のお守りだった。

【第7話】 初めての合格通知 試験会場で鉛筆を拾ってくれたのは、3回目の挑戦だという結城悠斗。「夜に積んだ人の顔をしていますから」——不思議な言葉に肩が軽くなり、試験が始まる。電卓を打つ指は夜の台所の音を覚えていた。2週間後、届いた合格通知に手が震える。「陽葵、ママ受かったよ!」時給は制度どおり1000円から1150円へ。たった150円と笑う人もいる。でもこれは、わたしの努力の値段だ。早紀も医療事務に同時合格し、二人は一段目を上がった。

【第8話】 お盆のマウント合戦 返済表の最下行に丸をつけ、完済が見えてきた。次はWebの資格——家でも稼げる力がほしい。だが8月のお盆、由佳の嘲笑は止まらない。「150円上がって何になるの?私の給料、時給になおせば1400円だけど?」「30歳からの資格ごっこは金のむだ」「夜に勉強なんて母親のくせに」。親戚は曖昧に笑うだけ。けれど去年の美咲とはもう違う。今のわたしには数字がある、制度がある、積んだ夜の数がある。むだかどうかは時給表が決める——あなたじゃない。

【第9話】 怒りは長持ちする燃料 「今はまだ、届いていません」——静かに返した美咲を由佳はなおも笑う。だが美咲は言い返す代わりに頭の中で計算した。資格1つで150円、あと2つ取ればあなたの上に出る。怒鳴り返すよりずっと確実な仕返しがある。帰りの電車で参考書を開き、家に帰ってすぐWebの試験に申し込んだ。秋、市の自習室で悠斗と再会する。「怒りは、いちばん長持ちする燃料ですから」——余計なことを聞いてこない、同じ机で戦う仲間ができた。

【第10話】 忘れもしないあの声 11月、Webデザインの試験に合格。時給は1300円になり、2段目を上がった。変わったのは時給だけではない。簿記とWebの力で、家でお店のホームページを作る仕事をもらえるようになったのだ。陽葵が寝たあとの2時間がそのままお金になる。家で稼げるなら、熱の日もそばにいられる。返済表は残り3行——完済まであと少し。そのとき、知らない番号から電話が鳴った。「よう、俺だよ」。忘れもしない声。別れた夫の、谷口拓也だった。

【第11話】 元夫への完済宣言 電話の用件は金の無心だった。時給が上がった話を親戚づてに聞きつけ、「夫婦だった仲だろ?」とすり寄る拓也。「ちょうどよかった。わたしも話したいことがありました」——美咲は一人で喫茶店へ向かう。「俺がまたそばで見ててやる」と恩着せがましく迫る元夫。昔ならうなずいたかもしれない。でも今は分かる、目当てはわたしの財布だ。美咲はかばんから2枚の紙を取り出した。1枚目は、借金を返し終わった完済の証明——。

【第12話】 さよなら、閉じこめた言葉 「あなたが残した半分も、わたしの給料で全部返しました。資格を取るたび時給が上がる国ですから」。2枚目は裁判所で決めた養育費の取り決め書類。「これからは決められた分だけ口座に入れて、それ以外で関わらないでください」。書類なんて水くさいとすがる元夫に「他人です」と言い切る。捨て台詞を残して消えた男に、恐怖はもうなかった。冬の初め、3つ目の資格・パソコン会計に合格し時給は1450円——あの1400円という数字の、上に出た。そして、正月が来る。

【第13話】 テーブルに置いた明細 1年前のわたしは、ここで下を向いた。今日は、向かない。「去年言いましたよね。時給になおせば1400円だと。届かない高さがあると」——美咲は時給の明細をテーブルにそっと置いた。「わたしの今の時給は、1450円です」。部屋がしんとする。まちがいだと騒ぎ、夜の仕事だと決めつけ、ずるいと喚く由佳。「同じ制度が、あなたにも使えますよ。今日からでも」。制度は誰にでも開いているのに。由佳の声が、初めて小さくなった。

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